After the storm
「首領!弾薬庫から火がでてます!!」
「消火に行かんか!このばか者が!」
遠くの方で更にもう一つの爆発音、つづいて地面を揺り動かすような
「工場か!?」
「襲撃だ! 襲撃されてる!!」
やっと気が付いたらしい。エレフィン人の男たちが駆けずり回っている。
「奴隷たちが! 奴隷たちがいません!!」
別の男が血相を変えて駆け込んでくる。 その声にかぶるように、重厚な貨物搬送船の排気音が鳴り響いた。首領は空をみあげた。そして、部下からの報告が終わるか終わらないかのうちにきびすを返し、通路に向かっていった。
「ボス!どうするんですか?」
答えないでどんどん進んでいく男・・・
「どうにかしなきゃ!ボス!!」
エレフィン人がすがりつく。男はポケットから面倒くさそうにナイフを取り出し、エレフィン人の首を掻き切る。緑色の血を流しながら倒れた男を見つめながら、首領と言われた男は低い声でつぶやいた。
「イルン、お前、俺と来るか?」
部屋の隅から様子を見ていたイルンが顔をあげる。
「ヒトミだ。もう直ぐADD本体も来るだろう。今の体制では勝てない。してやられたな・・・」
「・・・!」
「俺から学ぶんだイルン。そしてふたりでADDをひねりつぶそう。そして、ヒトミを俺たちのペットに、いや、公衆便所にしてやるんだ。」
首領と呼ばれた男について、イルンもその場を後にした。
***
格納庫に置かれたわたしの宇宙船には当然のごとく、罠が仕掛けてあった。わたしは意識を失った守衛の男を操縦席に投げ込むと、宇宙船を自動操縦にセットした後、後部のメンテナンス口から機をおりた。轟音を立てて基地を発った機が、離重力ジェットを発火するころ、わたしの遠隔モニターには、ザザ虫に体中に侵入され地獄のような喜悦ののた打ち回る男の姿が映しだされていた。
機がディアロンの仕組んだ遠周回軌道に乗り惑星を回りだすのを確認すると、わたしは、敵の弾薬庫に忍び込み、この基地のサボタージュを開始した。まず、二人の守衛を片付け、つかまっていた女性たちを輸送船に乗せこみ、オートパイロットをセット、わたしの仕掛けた爆薬がGOすると同時に離陸するよう設定した。そして、ステルススーツの力をつかってギャングのメンバーたちの横をかすめ、爆薬のセットを続けた。そして敵の通信室にはいり、一人で留守を護っていたメンバーを昏倒させ、スターゲイト7B付近にいるADDの遊撃船隊に連絡を取った。あとは、遊撃隊とのランデブーポイントに向い、タイミングをみて爆薬を遠隔で点火するだけだった。
最初の、一連の爆発が終わる頃には、スターゲイトを通って、ADDの攻撃隊が到着していた。わたしは、その中の小隊を率い、ギャング団の司令室に乗り込んでいった。ロジャー・バックス大佐の遺体を確保し、そして彼をあんな目に合わせた敵の首領、ディアロンを逮捕する為だった。 しかし、わたしたちが到着したときはディアロンはすでに逃げ出した後だった。
空を見上げると、この星の成層圏のあたりに特徴的な三叉のジェット後流が見えた。
「中尉、やりました。奴ら、全滅です! 逮捕者620人、射殺は30人のみ、そして解放された人質は820にんです!」
遊撃隊長の少尉がこちらを見て顔を輝かした。わたしは、彼のほうを見て、最初あいまいだった笑顔を無理やり満面にひろげた。
「少尉の迅速な対応があったからです。有難う。わたしは去りますが、この件はすべて少尉の方で対応をしたことにしてください。」
「でも、中尉、お手柄はコタニ中尉の・・・」
「いいんです。わたしはあまりプロファイルをあげるわけに行きませんから・・・」
ADDの中でも特殊工作で糧を得ているものはあえて手柄を自分のものにすることはない。
「わ・・・わかりました。中尉、せめてもの、ねぎらいに、どうです?一席・・・」
少尉である男はとても魅力的な笑顔で私を誘う。わたしは飛び切りの笑顔を見せ答える。
「ありがとう。でも、いまは基地に出頭しないと。今度、プライベートで、是非ね。」
そういって、わたしは1週間後にキャンセルとなるコールハンドルをわたした。
わたしは遊撃隊の機群が駐機している広場に一人で歩いていった。 ディアロン。奴はにげた。そして反抗の拠点をまたどこか別の位置に作り上げるだろう。数少ない特A級の指名手配犯。そして、わたしにとって捕らえなくてはいけない男・・・生きている限り彼はADDにたいして、そして私自身に対して深刻な脅威となり続けるだろう。嬉々として作戦処理を続ける遊撃隊員たちをよそに複雑な気持ちで空を見つめていた。 しばらくするとわたしの後で控えめな排気音が響いた。振り返る。わたしの機が着陸したのだ。わたしは打て首のコントロール装置を繰り、コマンドを送る。(操縦席の男を拘束して機から降ろして。そして、中の蟲を排除・・・いや、一匹だけサンプルとして拘束して) わたしはテープにぐるぐる巻きにされた男を遊撃隊に引き渡し、体にぴったりと張り付いたステルススーツに視線を向ける隊員を尻目に機のコックピットに乗り込み、エンジンを始動した。
* **
スターゲイトを超え、巡航に入る。わたしは今回の任務について初めて落ち着いて考えた。
「ロジャー」
もう、いたずらそうな微笑、そしてがっしりとした背中はみれない。頭を振りながらわたしは操縦席をはなれ、シャワー室に向かう。窮屈なステルススーツを脱ぎ捨て、キュービクルに入ると、パネルの“Full”とかかれたボタンを押す・・・勢いの強い水流が体をうつ・・・・その水流の中、わたしは声を立てて泣いた・・・
何十分そうしていただろう。壁にもたれかかったまま知らぬ間に涙が枯れていたようだ。
私は、ブロワーで体を乾かし、何も身につけないままコックピットに戻る。体になじんだ革製のシートが心地よい。すばやく通り過ぎてゆく天体群をウィンドーから見ながら、虚空の彼方に向かい、つぶやく。
「ロジャー、見てて・・・好きだったでしょ?見るのが・・・」
そういうと、わたしは、操縦席の脇にあるキャビネットを開け、小さな透明の球体を取り出す。中から、棘の生えた脚をざわつかせる、奇怪な蟲の複眼がわたしの胸をみつめている・・・
「痛み止めは飲んだわ。だから・・・あなたに、最高のショウを見せてあげられるわ・・・」
そういうと、わたしは、その球体を操縦席に投げ出された長い腿の間に挟み、ゆっくり、「開放」のシークエンスを入力した。