「クセー身体だなぁ。洗わねぇと売り物にならないからよぉ!」
『看守』は2メートルを超える大柄なミュータントだった。わたしの髪をつかみ、蛇口の真下に連れて行くと、冷たい水を頭からかけながら、硬いブラシで体を荒くこすられた。
わたしは、軽く抵抗したが、そいつのばか力にねじ伏せられ、おとなしくするしかなかった。体を洗われると、裸のまま首輪をつけられ、その首輪につながった短い鉄棒の先についた手錠に両手をつながれた。そして、汚い地下室をでて、白いきれいな部屋に連れて行かれた。看守が部屋から出ると拘束が解かれた。部屋は近代的なアパートのようで、ベッドには真新しいシーツがはられていた。
それから3日の間、わたしは不思議な待遇をうけた。一切の虐待も受けず、誰にも会うことはなかった。食事の時間になるとサーバボットたちによってシンプルだが美味しい食べ物がだされた。私はこの不可解な状況に戸惑ったが、この機会を無駄にせず体力の回復を図り、ベッドについているオートドクター機能を使って、体中の傷を治し、髪、肌も含め、体調をベストに回復させた。
4日目の朝。目覚めると、わたしはこの間と同じ拘束具に両手を押さえられ、全裸で高い台の上に乗せられているところだった。地上から2メールとはあるだろうか?わたしの足元のほうでは騒がしく人々が行き来していた。
「よく見学しておけ、おまえもあいつらと同じように売られるのだからな」
みみもとで、聞きなれた「看守」のこえがする。わたしが立たされている台の後ろに男はいた。
わたしの足元では異様な光景が展開していた。ドゥイエ大佐から聞いていたが、わたしは直接目にする奴隷市の有様に仰天した。そこで見せられたのはあらゆるエイリアンの、あらゆる欲望を充たすために鍛えられ、調教され、そして肉体改造を施された地球系の女たちの悲惨な姿だった。女たちはわたしが載っているものよりも低い台に乗せられており、その周りをエイリアンや人間が歩き回っていた。あるものは巨大な生殖器を持つことで有名なエセラン人に仕えるために、性器とアヌスを大きく拡張されたうえ、生体ジップをそこに施されていた。また、7本のセックスを有するマナコネ人用に乳房としりっぺたに性器を合成されたもの、背の低いダビデ人のために、膝から下を切断されているもの、そして脳を抜かれ、バイオ・ドールの代用として売られているものなど、それはあまりにもひどい光景だった。
(なんて・・・なんてこと・・・!)聞きしに勝る状況を見てわたしは慄然とした。そして、その戦慄はすぐに激しい怒りに変わった。
「なんて、なんてひどいことをするの! すぐにやめなさい!!」
わたしは大声で怒鳴り散らした。すぐに市場の参加者たちはわたしを見たが、多くのものはニヤニヤとしたいやらしい笑いを浮かべ「商品」とされている女性たちの値踏みにいそしみだした。
「よくやったぜ、ヒトミ、コレでお前の価値が上がったぜ。気の強い女を好きなやつは多いんだ。お前は運がいい。顔も身体も極上だから『素』のまま売れる。足や手をぶった切られたり、まんこを広げられなくてもな。ただな、気が強くてもいいが、逃げようとか、するとひどい目にあうぜ。あのおんなみたいにな!」
『看守』が指差した先を見やり、わたしは当初、それが何かわからなかった。そこにはまるで首吊り台のようなものから吊り下げられた不思議な生物がいた。最初、それはまるで肌色のピクニックバスケットのように見えた。弓なりに反った長細い湾曲した胴体から4本のきれいにカーブした取っ手が出ており、それが体の反対側でひとつになっていた・・・しかし、よく見ると体の前にはきれいな形の乳房、真ん中は形よくくびれ、茶色いトウモロコシの房のような毛が揺れて上に持ち上がると、きれいにカールのかかった髪の間から整った顔が現れた。
「お前の先輩だ。ADDだよ。ずいぶん俺たちをてこずらせてな。あれが唯一安心できるかたちなんだがな。あんな気持ち悪いのでもいいってやつがいてな。」
なんてこと!体の後ろで四肢をまとめて生体溶接されている。それも、骨を抜かれて。
わたしはその女性の顔を見つめた。彼女もわたしに気がついた。とたんにその顔が苦痛にゆがんだ。後ろから、彼女の二倍もの大きさのあるエレフィン人が彼女を犯しはじめたのだ。
「生きたまま、麻酔もしないで骨を抜いてやった。ぎゃーぎゃー痛がってたけどな、最後まで助けは乞わなかった。ま、たいしたもんだが、今となっちゃざまーねーわな。」
エレフィン人に犯されてる女性の唇が動いた。
(た・・・す・・け・・・て・・・・こ・・・ろ・・・し・・・て・・・)
ひどい・・・なんてやつら・・・ ぜったい・・・絶対ゆるさない!
***
次の日の朝、わたしは白い部屋に戻されていた。昼食を食べて休み、軽く身体を動かし伸びをしているとき、急に全身が動かなくなった。身体を爪先立たせ、手を上に伸ばした姿勢のまま、心の中で、空間拘束を行っているであろう見えない拘束者に対し悪態をついていると、看守とともに赤い服を着た背の高い男が入ってきた。おとこはとがった爪でわたしの身体を無遠慮に撫で回した。
(く・・手を放してよ!)
「よかろう。これなら十分だ。あした、『宮』につれてこい」
甲高い気に障る声でそれだけ言うと男はきびすを返し、去っていった。
看守はわたしの方を向きやや不満そうな声で、
「よかったな・・・『宮』いりができるとは・・・」
「なんなの・・・その『宮』って?」
かろうじて発することのできたかすれ声でわたしは聞いた。
『宮』は上客のみを対象としたオークションハウスだった。まるでカスバのような先日の奴隷市とはちがい、『宮』ではわたしたち商品は豪勢に着飾った客たちが囲む大理石のステージの上に引き出され、値踏みされ、せりにかけられた。といっても全裸に剥かれたわたしたちが身に付けることが許されたのはこの前のものと同じ構造のベルベットの拘束具のみであったし、客たちはいくら上等の服を着てもその品性の下劣さは隠すことができず、客席ではののしりあい、喧嘩が続いた。また、『商品』を舌やそのほかの下品な「器官」で文字どおり『味見』しようとして世話人にたしなめられるものも多かった。
その中で、一人だけ、静かに、太い葉巻を口にくわえ中空を見つめている男がいた。そいつは人間、つまり地球系人と思えたが、その体つきは異様に大きく、なんと身長3メートルはあった。盛装する男たちの中にあって、一人だけ革でできた年季の入ったズボンにびりびりに破れた革ベストをあたままでつづく迷路のような刺青をほどこした、赤銅色に焦げた肌にはおり、右目のあるべきところは神話の中の『海賊』のようなアイパッチをつけていた。
その男は、オークションに出されている女たちを見渡していた。そして、わたしと目が合った瞬間、目じりを下げ、一つしか無い目でいやらしくウインクした。
(気持ち悪い!)
わたしは背中じゅうを毛虫に這い上がられるかのような嫌悪感に襲われ、目をそむけた・・・
(どんなことになっても・・・あんな男にだけは・・・)
たとえ、それが逃げ出すまでの短い期間であってもいやだった。あの男・・・あのいやらしい目・・・そして、不気味な自信、静けさ・・・すべてが嫌いだった。
オークションが始まりせりが続いていくにつれ、わたしはあの男のことは忘れていた。私以外に5人の娘たちがせりにかけられていた。いずれも健康そうな地球系惑星の女だった。セリが始まると同時に会場は沸き立ったが、最初の2〜3件ほどのビッドが出されるとほとんどのものは黙りこくり、セリに参加するのは4〜5人ほどの男たちだった。それぞれの出身星系による変位を考慮してもみな結構高齢の者たちだった。(こいつらの誰かなら・・・チャンスがあるかも・・・)相手が一番油断するのは性交のとき。そのときがねらいめとすれば、それは肉体的に弱いやつのほうがいい。わたしは自分を競り落とすであろう候補がみな年老いたロートルらしいことを知り、内心ほくそえんだ。
セリは着々とすすみ、すぐにわたしの番になった。「ADDの新人」という看板は相当に刺激的だったらしく、とたんに会場の男たちは足を踏み鳴らし、あちらこちらでグラスが割られ、テーブルやいすがたたき壊されて。
「しずかに!」
しかし、その混乱も世話人の一渇によって鎮められた。
「みなにとって憎い、親の敵より憎いADDだ。でもな、こいつを自分のものとしてもてあそぶにはそれなりの金を払ってもらってからだぜ。わかってるな??」
不服そうな顔も見られるもの、大柄でこわもての世話人と大口径の銃をさりげなく見せ付ける警備のものたちにたしなめられ、セリが再開された。
結局、わたしのセリも金額が約10倍に跳ね上がったことを除けば、ほかの女たちとあまり変わらない幕切れを迎え、細い目をした年老いたリザディア人の男が競り落とした。わたしは、なぜかほっとした気持ちで、さっきのアイパッチの男のいるほうを見やった。そこには空席になったいすがぽつんと空いているだけだった。