その後に続いた4週間のトレーニングはどれも常軌を逸したものだった。トレーニングというよりも拷問。いや、もしかしたら拷問そのものといえた。 あるときは大佐のいう”感覚増進剤”を塗ったうえで、ガラスの破片をちりばめた一本鞭でたたかれ続けた・・・ 敵の拷問なら、自軍の秘密をしゃべった時点で解放されるか、殺されるかしただろう。ただ、大佐のは「拷問のための拷問」おわりのない仕置きだった。痛みに耐えられなくなり、失神しても、すぐに酢のように刺激のある液体を傷だらけの背中にかけられ、おこされた。 また、あるときは蛆やミミズで充たされたタンクに、全裸で、後ろ手に何度も縛られた上で投げ込まれた。感覚増進剤で敏感になった肌中に気味の悪い蛆が這いまわり、わたしの肌の上で押しつぶされる感覚に気が狂いそうになった。大佐は、わたしが決められた3分間の間に縄から抜け出せないのを見届けると、残忍にも砂サソリを数十匹もタンクに投げこんできた。わたしは、全身を毒虫に刺され、強烈な痛みと高熱にうなされ、身体をガクガクと震わせ、必死で、縄を解き、タンクから這い上がり半ば気を失いながら、力の抜け切った膝のために何度も何度も転びながらも、医務室まで、自力でいくしかなかった。
そして・・・そうした訓練から開放され、メディカルポッドで治療を終えたわたしを待っていたのは・・・ドゥイエ大佐による初日と同じ、いや、さらに激しく、残忍な陵辱だった。わたしの体中のあらゆる神経は恐ろしく猥褻な歓喜の踊りを、燃え盛る煉獄の業火の上で踊らされた。醜悪なエイリアンとなった大佐は、いくつもの触手でわたしの全身をまさぐり、あらゆる孔を犯し、内蔵をかき回し、首を締め上げ、全身を縛り上げ、ムチ打ちながら何度も何度も、おぞましく、そして恐ろしいまでに激しい精神、感情と肉体の崩落をわたしに覚えこませていった。
信じられないような痛み、苦しみと、強烈な官能の洗礼。日増しにエスカレートしていくドゥイエ大佐の”訓練”。まさに毎日が前の日を超える”地獄”だった。その地獄の中で魔王ルシファーのようにドゥイエ大佐は君臨していた。いつしか、わたしは訓練以外の時間でもドゥイエ大佐の足音が聞こえるだけで震えが止まらなくなり、大佐の前では視線を合わせることもできないほどにおびえていた。そして、大佐が、その指先を・・・たとえまったく普通の人間と替わらないままの状態でもわたしの身体に、いやらしく触れてくると、ただの怯えとは別の、冷たくも、熱い芯を持った感覚に全身を貫かれ、下半身の骨が溶けてしまったかのようにくず折れてしまうようになっていた・・・
***
「ヒトミ、こっちへ来い」
4週間が過ぎたとき、大佐はトレーニングルームにいたわたしに作戦室にくるように命じた。私は下を向き、ついていった。(つぎはなにが・・・・)心臓が締め付けられるような緊張のあと、どんよりとした靄が心を覆った。わたしは折を見ては大佐に自分がADDには不向きだと認識したこと、今すぐ(『大佐殿の御許可をいただければですが・・・』)トレーニングを中止し、退官する準備があることを伝えた。そのたびに、大佐はわたしを陵辱した!『まぁ、そうあせるな、俺とあえなくなったらさびしいだろ、訓練期間中だけでもたっぷりと楽しめや!』といって、わたしを人外の官能の淵につきおとした。
(これから・・・又、陵辱が始まるの・・・?)作戦室はときに急ごしらえの拘置室として使われる。壁には手錠を留める金輪があり、ガンロッカーには大佐が淫らな拷問に使う鞭や縄がしまわれていた。そして、大佐に従順で思春期の男の子のリビドーを持つ汚らわしいソラナマコたちの水槽も・・・わたしは陰鬱な気持ちで作戦室に向かった。
作戦室のドアが音も無く開いた。中を見渡すと、艦長席に座りスクリーンを見つめる大佐の後姿が見えた。そして、そのスクリーンには特別諜報部隊長のブラク司令官が写っていた。わたしは目頭が熱くなるのを感じた。わたしが尊敬する、優秀でやさしいブラク司令官!(「ブラク司令官、申し上げなくてはいけないことが・・・」)しかし、その一言を言い出す前にブラク司令官がしゃべりだした。
「こんにちはお二人さん。トレーニングはどう?うまく行ってるかしら?コタニ少尉もだいぶ逞しくなっている事でしょう。」
「司令官!」わたし、もう・・・しかしそう言おうとするわたしをドゥイエ大佐はあざ笑うような微笑で見ていた。
「これはメッセージカプセルですから皆さんと会話はできません。」全身から血の気が引いた・・
「貴方たちがいる空域に奴隷船と思われる船が確認されました。知らないでしょうが、先月連邦軍のコントロール下にあるコロニー、“ペルセポネ”が襲撃され女性ばかり300人がさらわれています。おそらく今貴方たちの近くにいる船に乗せられてカルデシアに送られているのでしょう。船の特徴はC-z1クラスだということだけわかっています。
訓練中ですがすぐに拿捕に向かうように。では、よい知らせを待っていますよ。」
(・・・)わたしは大佐のほうを盗み見た・・・ということは、しばらく大佐から開放される・・・その間に船の中から辞職の意を本部に知らせて・・・そして、脱出ポッドで帰れるかも。そんな卑劣なアイディアが頭をかすめる。
「あああ、せっかく楽しんでいたのになあ、面どくせぇったらねぇ!」
ドゥイエ大佐が語気を荒げる。(もう少し、もう少しの辛抱だ・・・)
「ヒトミ!!」
大佐が振り返り、腕をわたしの肩にかけた。(あああ・・・やっぱり此処で・・・)わたしは目を閉じ、体の力を抜いた。
「訓練の成果を見せるときだ。」
そのまじめな声にわたしは拍子抜けしたように前を向き、目を開けた。
「船はもう捕捉してある。女たちを助けだすんだ。」
(でも、大佐・・・殿・・・)
「充分できるはずだぞ」
「・・・わたしには・・・それに、わたし・・・」
「なんだとぉ!」
あ、なぐられる!
「お前が行かないでどうする。奴隷船に俺が船には乗ったら一気にばれる。その辺、女のお前ならまだいいだろう。
あああ・・・でも、自信が無い。こんな、責任重大な任務・・・
「他・・・大佐殿・・・誰か、他の方に・・・」
「馬鹿言え! 誰がいるんだ! この周辺で最も近い味方の船は1週間の距離だ。その間に女たちがどんな目に会うのか知ってるのか!」
ああ、でも、わたしが行って失敗したら・・・もっとひどい目に・・・
「これを、みろ!」
ドゥイエ大佐はわたしの髪をつかみ、顔を引き上げ、スクリーンを指差した。
そこに写っていたのは・・・まさに地獄絵だった・・・
醜怪な形のモンスターにうしろから強姦されている女性のくちから、血まみれになった怪物のペニスが突き抜けて出入りしていた。彼女はあまりの痛みにもう発狂しているようで笑っていた。他の女は一度に前後から巨大なモンスターを受け入れ七転八倒の痛みの中に両手両足をばたつかせ苦しんでいた。 いたいけない少女がこちらのほうを泣きそうな顔をして見つめている。 (誰か・・・助けてあげて・・・)わたしは心の中で哀願した。
「俺の母親もこうされた・・・・・・助けてやってくれ。ヒトミ!」
わたしはぽかんとして大佐のほうを見た。そこには昨日までわたしにあらん限りの辱めを加えてきた魔物ではなく、真摯で平和を愛する鬼教官がいるように見えた。
わたしは、しばらくぽかんとしていたが、黙って大佐に背中を向けた。
「わかった。12時間待つ。返事をくれ。嫌ならいい、俺一人でも行く。」